イーストマンTritan™コポリエステルは、射出成形用途として通常新しい金型を必要とすることなく、ポリカーボネートの代わりを果たすことが出来ます。残留応力を抑える特長があり、アニーリングを省略できることが多く、成形サイクル時間を短縮できます。低い成形温度とサイクル時間短縮の可能性により、加工中の消費エネルギー低減を図ることができます。Tritan™は非常に優れた成形性を持つことから、成形メーカーはこれまで以上に自由に創造性をもって複雑な形状を作り出すことができます。

Tritanで優れた結果を出すには最適な成形機を選択し、機械能力、型締力、そして射出速度コントロール能力等の条件を考慮する必要があります。ここでは、機械能力、およびTritanを加工するための準備として必要不可欠な、乾燥、エアーフローおよび水分測定に関する情報を提供します。また、バレルおよび溶融温度、射出速度、スクリュー回転数、クッション量、背圧、パージ材について考慮すべき重要な事実や推奨事項を取り上げています。詳しくは、末尾のイーストマン推奨文献リストと各リンクを参考にしてください。

成形機の選択

イーストマンポリマー用の成形機を選択するにあたり、以下の条件をご検討ください:

  • 機械能力(ショット重量)
  • 型締力の有無
  • 射出速度コントロール能力

乾燥

成形前の予備乾燥は絶対に必要です。

どのポリマーにも吸湿性があります。除湿乾燥機による射出成形前の予備乾燥が必須です。ペレットが乾燥されていない場合、成形時に水分が溶融ポリマーと反応し、分子量が低下する原因となります。分子量が低下すると引張強度や衝撃強度が低下し、物性が劣化します。成形品にスプレー等、外見上の不具合はなくても、物性が低下している可能性があります。

乾燥時間
ペレットはそれぞれのデータシートの条件に従いホッパーへ投入します。乾燥機が低温で始動する場合、適切な温度になるまで暖機し、露点を -30°C (-20°F) 以下までに下げてから乾燥を開始します。

空気の乾燥レベル
乾燥空気は、乾燥機/ホッパーシステムの空気循環閉ループ内の乾燥剤を経由して供給されます。除湿前の空気の乾燥前に、乾燥剤を加熱し再生させなければなりません。再生後の冷却は、外気よりも閉ループ(予備乾燥済み)の空気で行うほうが効果的です。

ペレットホッパーの上から戻ってきた空気はフィルターを通過し、乾燥剤、ヒーター、ホッパーの順に吹き込まれます。ポリエステルに使われる乾燥機には戻された空気を冷却するアフタークーラーが必要です。還気の温度は、水分と乾燥剤の親和性を高め効率を上げるため65°C(150°F)以下でなくてはなりません。

エアーフロー
乾燥に必要なエアーフローは、時間あたり材料1kgにつき1分間の乾燥熱風量0.06立方メートルです(kg/時につき0.06 m³/分)。例えば、1時間に109 kg(240 lb)の材料が使われるとすれば、エアーフローは最低6.7 m³/分(240 cfm)であるべきです。小型乾燥機で良好な通気配分を確保するために必要とされるエアーフローは通常およそ2.8 m³/分(100 cfm)です。

水分測定
露点計は空気の乾燥度のみを測定し、ホッパー内の樹脂の乾燥度は測定しません。温度、エアーフロー、時間の測定と共に露点計を用いることで樹脂が適切に乾燥されているかどうか的確な指標を得ることができます。

乾燥減量法タイプの水分計は、ペレット内部の水分を測定する器具です。このような水分計は樹脂内の水分量がどれだけ減少したか、一般的な数値として表示されます。しかし、ほとんどの場合その精度は、成形時の劣化を防ぐ目的でポリエステルの適切な乾燥度を確保するといった品質管理ができるほどのものではありません。水分レベルは0.020% - 0.030%の範囲が望ましく、乾燥減量法以外の分析方法で測定されます。

一般的な乾燥機の問題

  • フィルター詰まりに起因するエアーフローの減少
  • ホッパーが充填されきっていないため空気がペレットに行きわたらずに材料の一部を通る
  • 乾燥空気の供給 / 戻り時に外部の「湿った」空気から水分が混入
  • ホッパーの上にあるローダーを通じて空気に水分が混入
  • 除湿時に乾燥剤に戻る空気の冷却不足 (乾燥剤と水分の親和性を増大させ効率を上げるため空気は 65°C [150°F] 以下に冷却されなければなりません。ポリマーによっては乾燥の際にアフタークーラーが必要です。)
  • 乾燥剤の損耗や汚染による乾燥剤の効率低下
  • 再生および / または処理ヒーターの不具合
  • 送風機モーターの逆回転
  • 制御装置が乾燥剤の交換を要求したときにエアーフローが転換されず、ひとつの乾燥剤が継続して使用され続ける。

成形条件

バレルおよび溶融温度
ショット容量は、バレル温度を設定する際の最初の検討事項です。一度のショットで成形機のショット容量の半分程度が使われる場合、一般的にバレル温度は全体でほぼ同じ温度に設定されるか、フィードエンドで若干低めに設定します。機械能力に対してショットが少ない場合は、高温下で長時間滞留する間の劣化を避けるためにフィードエンドの温度を大幅に低く設定します。ショット量が機械能力をほぼ満たしている場合は、フィードエンドで同じまたは高めの温度に設定するのが一般的です。こうしたポリマーは、適切なスクリューの回復を行うためにしばしば高めのリアゾーン定値で下降プロファイルを必要とします。

もうひとつ重要な要素はサイクル時間です。たとえば金型冷却に限界がありサイクル時間が長くなる場合バレル温度は低めでなければなりません。スクリューが異なれば加わるせん断熱量も異なりますが、溶融温度は 10°-20°C (20°-40°F) ほどバレル設定よりも高くなるのが一般的です。

実際の溶融温度は針状パイロメーターでチェックします。溶融温度はサイクルが始まったときに計測し、サイクル中の射出は耐熱容器内で計測するのが最善です。

射出速度
ゲートブラッシュやスプレー、またはその両方を最低限に抑えるため、コポリエステルは他のプラスチックよりも遅めの充填速度とします。充填速度調整機能のある成形機の使用をお勧めします。ショットの初め 3%-5% までは有効能力の 10%-20% 程度の非常に遅い速度で充填を開始し、その後 40%-60% に上げてショットを完了します。一般的に、50-250 g/秒 (1.76-8.8 oz/s) が平均的な充填率です。

スクリュー回転数
スクリューは金型が開く 2-5 秒前までに後退できる最低限の rpm で動かさなければなりません。これによって粘性発熱を抑え、溶融をより均一にし、無駄時間を最低限に抑えます。

充填と保圧
ダイレクトスプルーゲート部品に共通の問題はスプルー基部での収縮によるボイドです。保圧時間を8-12 秒と長くし、保圧を 275-550 バール (4,000-8,000 psi) (ノズルプラスチック圧)と低くすると、過剰充填にならずボイドを発生させないスピードでスプルーに樹脂が供給されます。保圧時間が長くなった分だけ、冷却時間を減らせば、総サイクル時間を延長する必要はありません。収縮によるボイドは従来型のランナーにおけるランナーと突き出しピンの分岐点においても形成されることがありますが、同じ方法で防止することが可能です。

クッションサイズ
クッションサイズは、スクリューが底部に接触しない程度、また充填圧および保圧が成形品に伝わる大きさが必要です。サイクル中の充填および保圧の最終段階に残るクッションは通常 3-13 mm (0.125-0.5 in.) で、成形機の大きさと射出速度によって異なります。大きなクッションはバレル内部での滞留時間を延ばし、劣化の原因となりえます。ショットの最後までスクリューが全身し続ける場合は逆止弁が漏れています。逆止弁が漏れていると、ショートショット間のバラつきが出ます。

背圧
標準的な背圧は 7-10 バール (100-150 psi) ですが、 3.5 バール (50 psi) まで下がることも考えられます。溶融の均一性を向上させるには、溶融温度を上げるかエアートラップ(エアスプレー)を取り除くかもしくは、背圧を 28 バール (400 psi) まで上げます。背圧が過大にかかった場合は、減圧が最小限に留まるので金型への垂れ落ちが起こることがあります。

減圧
一般的に、減圧は最低限とします。減圧によりノズルにエアーが入り、次のショットでスプレーが発生しやすくなります。少量の減圧とすることで、垂れ落ちを抑えることができます。

パージ材
パージに使用する材料は成形に使用したポリマーと類似したものが最も効果的です。ポリエチレンまたはポリプロピレンは後続の材料と混合し、長時間スジ状のストリークを発生させる原因となりますので使用しないでください。パージしにくい材料の場合には、ノズルとフロントバレル部の温度を最大300°C(570°F)まで上げて材料を溶かし、パージしてその後運転温度まで冷却することもあります。ひとつ前の成形に使用した材料の製造元に最適なパージ材・方法を確認してください。

なんらかの原因でサイクルが 5 分程度滞留した場合は、パージを 3-5 ショット実施してください。

停止

一般的に、材料供給を止め、成形機内が空になるまで成形を続けられます。別の材料に変更する場合は、ポリカーボネート、アクリル、スチレン、市販のパージ材を用いて成形機が空になるまでパージを行い電源を切ります。

常にスクリューを正方向に回転させてください。そうしないと大量の材料が再度溶融してしまいます。スクリューが正方向に押し出される前に材料が完全に溶けていなければ逆止リングが破損する恐れがあります。

よくあるご質問について

最近、当社の生産部長からイーストマンTritan™コポリエステルを使ったプロジェクトを受注したと言われました。生産技術責任者として、製品の成形や加工に関する情報はどこで入手できますか?
Tritanの成形や加工に関する情報はEastman.com/products/all polymersでご案内しています。リンク先のリストからご要望にあったTritanをお選びください。各製品ページでは物性表、SDS、成形ガイド、二次加工ガイドにアクセスできます。

Tritanは乾燥させなければならないのですか?
はい、 Tritanは吸湿性のため成形前に乾燥させる必要があります。Tritanの乾燥に関する情報はイーストマンTritan™コポリエステル射出成形ガイドラインの3ページをご覧ください。このガイドラインはカタログTRS-237で、Eastman.comからご入手いただけます。

Tritanを射出成形する場合、溶融滞留時間はどれぐらいが適切ですか?
ポリマーが推奨温度で成形されている場合、ポリマーの溶融滞留時間は3分から5分が適切です。スクリューおよびバレル情報はイーストマンTritan™コポリエステル射出成形ガイドラインの6ページをご覧ください。このガイドラインはカタログTRS-237で、Eastman.comからご入手いただけます。

Tritanを成形する場合、成形溶融温度は何度に設定すればよいですか?
理想的なTritanの溶融温度は282°C(540°F)以下です。溶融温度は低めが望ましいですが、溶融温度が下がりすぎて射出圧が過剰状態にならいようご注意ください。成形中の溶融温度は成形機の温度設定と著しく異なる場合があります。常にパイロメーターで溶融温度を確認するようにしてください。

Tritanでの成形完了後、成形機をアイドリングさせる必要がありますか?
いいえ、Tritanの成形の合間にアイドリングさせる必要はありません。推奨停止プロセスでは、成形機バレルが空になるまでパージし、次にスクリューをホームポジションに戻してからバレルヒーターをオフにして成形を終了することをお勧めしています。

その他の関連リソース